自分の施設がブラックかホワイトか判断することは難しいと思います。どんな職場にも良い面と悪い面があり、多少のことでブラックだと声を上げるのに抵抗のある人もいるでしょう。
ですが、介護環境が極端に悪い場合は注意が必要です。『虐待をしている職員がいる』とか『不適切なケアが日常的に行われている』という職場はブラックといえます。
介護環境が悪いと仕事のモチベーションは保てません。たとえば『ヒヤリハット報告書が反省文あつかいにされている』『利用者の介護について職員で話し合う機会がない』という職場はブラックとまではいえなくても、イキイキと自分らしく働くことが難しいでしょう。
私は18年間介護業界で働き今は管理職をしています。過去には介護環境が悪く職員の士気が低い職場で働いていたこともありました。転職後はホワイトな環境で、職員みんなが自分らしく働ける環境をつくっています。
介護環境が極端に悪い職場は間違いなくブラックです。この記事では介護環境の悪い職場とはどんな職場か、具体的に解説したいと思います。結論は次のとおりです。
- 虐待をしている職員がいる
- 不適切ケアが日常的に行われている
- 激務で職員への身体負担が大きすぎる
- ヒヤリハット報告書が反省文あつかいにされている
- 利用者の介護について話し合う機会がない
- 業務改善について話し合う機会がない
- 働きがいを感じられない
あなたの職場の介護環境はどうですか?自分の施設がブラックかどうか、自分らしくイキイキと働ける環境かどうか判断する際の参考にしてもらえたら嬉しいです。それでは詳しく解説します。
介護環境が極端に悪いブラックな施設
明らかにブラックな介護環境について具体的に解説していきます。
虐待をしている職員がいる
これはもう明らかにブラックです。ブラックというか犯罪です。平成18年に高齢者虐待防止法、平成24年に障害者虐待防止等に関する法律が施行され、虐待に対する国民の意識は確実に高まっています。
虐待は5種類に分けられ、具体的には次のようなものがあります。
虐待の種類 | 具体例 |
---|---|
身体的虐待 | 平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。 やけど、打撲をさせる。 |
介護等放棄 | 入浴しておらず異臭がする。髪や爪が伸び放題になっている。 皮膚や衣服、寝具が汚れている。 |
心理的虐待 | 怒鳴る、ののしる、悪口を言う。 排泄の失敗などについて人前で話し、恥をかかせる。 |
性的虐待 | 排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下半身を裸にしたり、 下着のままで放置する。 |
経済的虐待 | 年金や預貯金を無断で使用する。 |
介護職員による虐待事件はニュースにも取り上げられます。下の記事は報道内容について詳しく考察しているので、よろしければ参考にしてください。
不適切ケアが日常的に行われている
不適切ケアは「虐待とまではいえないけど、利用者の尊厳やプライバシーを損なう恐れのある職員による言動」のことです。具体例を確認してみましょう。
- 利用者に友達感覚で接したり、子供扱いする
- 利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触る
- 食事や入浴介助の無理強いなど、利用者の嫌がる援助を強要する
不適切ケアが日常的に行われている場合、時間とともにエスカレートして虐待に発展する可能性があります。そのため不適切ケアは『虐待の芽』とも呼ばれます。
もし施設内で不適切ケアが行われていたら、早期発見して対処することが重要です。また接遇マナーの5原則を守ることで、不適切ケアを予防することができます。
不適切ケアのチェック方法や接遇マナーの5原則については下の記事で詳しく解説しているのでよろしければ参考にしてください。
激務で職員への身体負担が大きすぎる
「利用者の介助をしていると腰や肩が痛くなる」そう感じる介護士は多いと思います。介護は前かがみや抱え上げる作業が多いため、身体に負担がかかりやすい仕事です。
多少の負担は仕方ありませんが、重度の介助を多数こなすような激務となると身体への負担が心配です。介護職員の14.4%が「ほとんどいつも腰が痛い」と訴えているという調査があり、痛みを我慢しつつ仕事や家事をしている人も多いことが想像されます。
もし体を壊したら、介護の仕事はできません。あまりにも負担が大きい激務を強いられる職場はブラックといえるでしょう。
介護中の体への負担を減らすには、福祉用具の活用が有効です。持ち上げない・抱え上げない介助を実現するために3つの福祉用具をご紹介します。
- 介護リフト
- スライディングボード
- スライディングシート
いずれも移乗・起居動作時に使用する道具です。詳細は下の記事で解説していますので、よろしければ参考にしてください。
また腰痛予防の体操については下記で解説していますので、よろしければご参照ください。
自分らしさを失ってしまう介護環境
ブラックとはいえなくても、自分らしくイキイキと働くことができないような介護環境について具体的に解説します。
ヒヤリハット報告書が反省文あつかいにされている
ヒヤリハット報告書はその名の通り「ヒヤリ」としたり「ハッと」した出来事を記載し、事故予防のための改善策を考える書類です。
私が過去に勤めていた職場では、ちょとしたミスでも上司からヒヤリハットを書くよう指示され、提出しても何回も書き直しさせられるということがありました。これは完全に間違った指導です。罰のように、見せしめのように報告書を書かされると職員のモチベーションは間違いなく下がるでしょう。
このような職場では自分らしく、イキイキと働くことは難しいと思います。ヒヤリハットは反省文ではないのです。
ヒヤリハットの正しい書き方、活用方法については下の記事で解説していますのでよろしければ参考にしてください。
利用者の介護について話し合う機会がない
介護をしていると対応に悩む利用者に直面することがあります。例をあげてみましょう。
- 帰宅願望が強くて職員のいうことを聞いてくれない
- 入浴や排泄の介助を拒否して汚いままの状態になっている
- 気に入らない職員に対して怒鳴ったり、手をあげたりする
どう対応すればよいか分からず自分自身の無力感を感じたり、利用者に対してイライラしてしまうこともあるかもしれません。
大切なことは職員同士で利用者のケアについて話し合うことです。
話し合いがなく『職員それぞれが自分勝手に考えたケアをしている』『何も考えずに上司に言われただけのケアをしている』ような環境では、悩みを解決することはできません。
介護チームが一丸となって利用者と向き合い、困難を乗り越えようとすることで仕事のやりがいが生まれます。このような時に自分らしく、イキイキと働くことができるのです。
オススメはケースカンファレンスを開催することです。詳細は下の記事をご参照ください。
業務改善について話し合う機会がない
介護現場には職員の人材不足という深刻な問題があります。人員を確保することは急務ですが、現実的には限られた人員で業務をこなすことが求められるでしょう。
そこで必要なのが「業務改善」の視点です。業務改善で介護の生産性を高めれば、少ない人員で最大の仕事量をこなすことができるようになります。
もし業務改善ができなければ限られた人員で利用者に対処するため、職員の労働負担が過剰になり結果的にモチベーションが低下したり、離職率の増加につながってしまいます。これでは自分らしくイキイキと働くことはできません。
業務改善のキーワードに「3M」という言葉があります。3Mとは「ムリ、ムダ、ムラ」の頭文字である3つのMのこと。無理な作業や無駄な作業、ムラのある作業を特定し改善することができれば、生産性は向上します。
日常業務から「ムダ」を見つけ改善する方法を下の記事で解説していますので、よろしければご参照ください。
働きがいを感じられない
介護環境でもっとも重要だと思うのは「働きがいがあるか」ということです。「給料のためだけに働いている」「心身ともに疲れるだけ、働きがいはない」そう思う人は仕事も長続きしないでしょう。
介護職員がやりがいを感じるのはどのような時でしょうか。介護職員の仕事のやりがいに関する研究によれば、もっともやりがいを感じるのは「利用者の笑顔を見ること」であり「利用者・家族から感謝されること」「利用者の身体・精神状態が維持・向上すること」と続きます。
では、働きがいを感じられないのはどのような時でしょうか。たとえば施設・訪問介護職員に対する調査によれば、仕事を辞めたいと思うのは「職場の人間関係がよくない時」と答えた人が最も多いという結果になりました。
やはり利用者との関りや職場の人間関係は働きがいに大きく関与することが分かります。働きがいについては下の記事で詳細を解説していますのでよろしければ参考にしてください。
まとめ:ブラックな介護環境から抜け出そう
この記事では介護環境が極端に悪いブラック施設や、自分らしく働けない介護環境について具体的に解説しました。あなたの職場の介護環境がブラックかどうか、イキイキと自分らしく働ける環境かどうか判断する際の参考にしてもらえたら嬉しいです。
介護環境が悪いと仕事へのモチベーションは明らかに低下します。みなさんがホワイトな環境で、自分らしくイキイキと働けることを願っています。
介護環境が悪く、自分らしく働けない職場なら転職も考えて
もし介護環境が悪く自分らしく働けないと感じているなら、職場を変えることも検討してみてください。今、介護職員は引く手あまたであり、あなたに合う職場が見つかる可能性が高いです。転職を検討するなら介護専門の転職サイトを使うことをお勧めします(※完全無料です)。理由はこちらの記事をご参照ください。
参考文献
令和元年度 介護サービス事業管理者高齢者権利擁護研修 居宅系 本日の振り返り「配布資料」,公益財団法人 東京都福祉保健財団
ホスピタリティマインドにあふれる接遇マナーの基本 接遇研修にみる学生の学び,鶴田晴美 他,東都医療大学紀要,2021
介護者のための腰痛予防マニュアル—安全な移乗のために—,岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008
高齢者介護施設における組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響,岩切一幸 他,産業衛生学雑誌,2017
介護事故とヒヤリハットにおけるヒューマンエラー,床島絵美 他,日本心理学会大会発表論文集,2007
介護過程の展開における思考プロセスに関する考察,福原裕子,美作大学紀要,2006
介護サービス事業(施設サービス分)における生産性向上に資するガイドライン(令和2年度改訂版),厚生労働省老健局,2020
特別養護老人ホームにおける介護職員の仕事のやりがいに関する研究,小野内智子 他,大妻女子大学人間関係学部紀要,2014
介護福祉専門職の仕事のやりがい感に影響を及ぼす要因:施設介護員と訪問介護員の比較による検討,八巻貴穂,北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要,2016