『ヒヤリハット報告書』は非常に重要な書類です。でも報告書の本当の活用方法を理解している介護職員はどれくらいいるでしょうか。いまだに『反省文』と勘違いしている人もいるのが現状だと思います。
私は18年間介護業界で働いており、今は管理職をしています。私の職場では年間に約100件のヒヤリハット報告書が提出されます。リスクマネジメントにはこのヒヤリハットが欠かせません。
この記事ではヒヤリハット報告書の正しい書き方、書く意味、活用方法などについて解説したいと思います。誰でも簡単に記入できる報告書のひな形もアップロードしていますので、よろしければお使いください。
この記事を読むとヒヤリハット報告書を介護現場でどのように活用すべきか分かります。報告書をただの反省文だと思っている人や、「ヒヤリハットなんて書きたくない」と思っている人に参考にしてもらえたら嬉しいです。
- 事故を予防するために書くものであり、職員が反省するために書くものではない
- 危険に気づいた職員が自主的に書くものであり、誰かに指示されて書くものではない
- 報告書を書ける職員は、危険に気づける優秀な職員である
- 報告されたデータを分析して、傾向と対策を考えることが最も重要
それでは詳しく解説していきます。
重大な事故を予防するためのヒヤリハット報告書
ヒヤリハット報告書はその名の通り「ヒヤリ」としたり「ハッと」した出来事のことです。介護現場においてなぜヒヤリハット体験が重要なのでしょうか。
実は1件の重大な事故が発生する背景には29件の軽微な事故が発生しており、さらにその背景には300件のヒヤリハットが存在しているという法則があります(ハインリッヒの法則)。
つまりヒヤリハットの段階で察知して対策を練ることで、軽微な事故や重大な事故を防ぐことができるのです。そして気づいたヒヤリハットの数が多ければ多いほど、事故予防の効果は高まります。これはリスクマネジメントの観点から非常に重要なことです。
ヒヤリハット報告書は反省文じゃない
中には「仕事を失敗したから反省文としてヒヤリハットを書いている」という人もいるかもしれません。確かに、失敗することがあれば改善に向けて努力すべきだと思います。でも、それならヒヤリハット報告書を書く必要はなく、個人がしっかり反省すれば良いのです。
上司から何度も報告書の書き直しを命じられるという話も聞いたことがありますが、これは完全に間違った指導です。罰のように、見せしめのように報告書を書かされると職員のモチベーションは間違いなく下がるでしょう。何か失敗しても「報告書を書かされるから…」と隠ぺいしてしまう職員が出てくる可能性もあります。ヒヤリハット報告書はそんなマイナスの影響を与えるために使うものではありません。
報告書を書ける職員は、危険に気づける優秀な職員である
ヒヤリハット報告書は基本的には職員が自主的に書くものです。誰かに指示されて書くものではありません。今まで表面化されていなかった危険を見つけ出した人が、その重要性を記載するのです。報告書をたくさん提出できる職員は、それだけ危険に気づける優秀な職員ということになります。
事実を書き、原因を考え、改善策を出す
ヒヤリハット報告書にはまず事実を書きましょう。「いつ」「どこで」「だれが」「どうなった」かを記載します。次に「なぜ」そのようなことが起きたか原因を考え、最後に改善策を記入します。
ヒヤリハット報告書は反省文ではないので「すみません」とか「もうしません」などの言葉は不適切です。使わないようにしましょう。
事実までは誰が書いても同じ内容になりますが、原因や改善策に関しては報告する職員の考え方によって変わってきます。ここは介護士としてのセンスを問われる部分になるでしょう。ただ、あまり考えこまず自分の思ったことを書いて下さい。
改善策はできるだけ具体的に記載する
改善策はなるべく具体的に記載することを意識しましょう。よくある改善策に「確認する」「注意する」などの文言がありますが、できれば「誰が、いつ、どういう場面で、具体的に何を確認するのか」まで記入できるとより良い改善策になります。
誰でも簡単に記入できるヒヤリハット報告書のひな形をこちらにアップロードしたので、よろしければお使いください。
ヒヤリハット報告書は職場全員で活用する
特に新人はヒヤリハット報告書の書き方に悩むこともあるでしょう。「こんな書き方だったら上司にダメ出しされるかな」と心配する人もいると思います。でも、気にしなくて大丈夫です。大切なことは危険に気づいたら報告書を提出することです。
そしてヒヤリハット報告書は職場の全員で共有しましょう。危険な体験を職場全員で共有することで、報告者にはなかった視点で改善策が生まれることもあります。このように事故予防に向けて職場全体で取り組むことが重要なのです。報告者がすべての責任を背負うわけではありません。
改善策を出して終わりじゃない、定期的にモニタリングを
また、その後の状況を定期的にモニタリングすることも忘れてはいけません。改善策がうまく活かされているか、同様のヒヤリハットは出ていないかなどをチェックしていきましょう。できれば事故予防委員会を立ち上げて、複数人でモニタリングを担うと良いでしょう。
最も重要な活用方法はデータを分析し傾向と対策を出すこと
そして最も重要な活用方法は職場内のヒヤリハットのデータを分析することです。データをまとめるとヒヤリハットの傾向が見えてきます。自分の職場ではヒヤリハットがどの時間帯に多いのか、どの場面で多いのか、どんな理由で起こりやすいのかなどが分かってきます。これにより、事故予防に配慮した職員配置や、職員の動き方などを客観的に検討することができるようになります。これは1つ1つの報告書だけ見ていても気づけません。
当然ヒヤリハット報告書の数が多い方が分析精度の高い傾向と対策を出すことができ、事故予防に役立ちます。
まとめ:ヒヤリハット報告書を積極的に書こう
この記事ではヒヤリハット報告書を書く意味や活用方法について解説しました。ヒヤリハット報告書は反省文ではありません。事故予防を図るために非常に重要な書類です。危険に気づける優秀な職員ほど、報告書を提出する機会が増えるはずです。みなさんも危険に気づいたら積極的に報告書を書いて下さい。その行動が重大な事故を防ぐためにきっと役に立つはずです。
反省文としてヒヤリハット報告書を書かされる場合
ヒヤリハット報告書が事故予防に活かされずただの反省文になっている職場では、職員の意欲は間違いなく低下します。これでは事故予防を図ることができず、非常に危険な状態と言えます。まずはその雰囲気を改善するために正しい活用方法について上司に相談すると良いでしょう。もし上司が聞く耳をもたないというなら、職場を変えることも検討しても良いかもしれません。今、介護職員は引く手あまたであり、あなたに合う職場が見つかる可能性が高いです。職場を変える(転職する)なら介護専門の転職サイトを使うことをお勧めします(※完全無料です)。理由はこちらの記事をご参照ください。
事故予防について本格的に取り組みたい人はご連絡ください
ヒヤリハットデータのまとめ方など、事故予防やリスクマネジメント方法についてアドバイスが欲しいという方がいましたら、ラブカイゴまでお問い合わせ頂ければ幸いです。相談、コンサルティングさせて頂きます。
みなさんの職場にたくさんのヒヤリハットが報告され、1つでも事故が少なくなることを祈っています。
参考文献
介護事故とヒヤリハットにおけるヒューマンエラー,床島絵美 他,日本心理学会大会発表論文集,2007
高齢者福祉施設における利用者のリスクとリスク要因の調査研究,堀米史一 他,社会医学研究,2010
介護現場におけるリスクマネジメントと装具に係わる事例,萱野由希江,日本義肢装具学会誌,2019
訪問介護におけるリスクマネジメントに関する研究-訪問介護に対するリスクマネジメントに関する調査から,伊藤幸子,奈良佐保短期大学研究紀要,2015
救急活動時における安全管理の検討ー安全な搬送方法を考えるー,水野恭志 他,倉敷芸術科学大学紀要,2016