介護環境

【考察】介護職員による3つの虐待事件:なぜ起きたのか、防げなかったのか

【PR】「ラブカイゴ」は複数の企業とアフィリエイトプログラムを提携しています。当記事は参考文献や筆者の経験などにもとづき執筆しており、情報の根拠を明示しています。

介護職員による虐待のニュースが後を絶ちません。介護業界で働いていると「ニュースになるのは氷山の一角。どこの職場にも虐待はあるよ」という声も聞こえてきます。

彼らはいったいどんな虐待をしたのか、なぜ虐待をしたのか。この記事では報道された3つのニュースを引用して、虐待を防ぐ手立てはなかったのか考察していきたいと思います。

「虐待の現状や背景について知りたい」「どうすれば虐待を防げたのか考えたい」と思っている介護職員の方に参考にしてもらえたら嬉しいです。

この記事の構成
  • 介護職員による3つの虐待事件を引用
  • 事件の背景を考察:職員の負担や、介護方法の検討不足を指摘
  • 「不適切ケア」の早期発見が虐待を防ぐ理由について解説

私は18年間介護業界で働いています。日本の介護の歴史を振り返ると、過去には身体拘束などの虐待を平気でやっていた時代もありました。しかし、今は違います。平成18年に高齢者虐待防止法、平成24年に障害者虐待防止等に関する法律が施行されました。虐待に対する国民の意識は確実に高まっています。

虐待は絶対に許されることではありません。あってはならないことです。

①利用者の顔面を殴り死亡させた事件/東京都/2023年

1つめに引用するのは利用者の顔面を殴り死亡させてしまった事件です。

利用者の男性に暴行を加え死亡させたとして、警視庁捜査1課は24日、東京都足立区の高齢者介護施設「ケアホーム花畑」の介護福祉士、福沢薫容疑者(54)=足立区一ツ家2=を傷害致死容疑で逮捕した。「昼食の介助中につねられ、腹が立ち殴ってしまった」と容疑を認めているという。

逮捕容疑は8月19日正午ごろ、施設内にある個室のベッド上で、利用者の久保栄治さん(当時81歳)=足立区六木4=の顔を殴る暴行を加え死亡させたとしている。久保さんは翌20日午後5時50分ごろ、搬送先の病院で急性硬膜下血腫などにより死亡が確認された。

捜査1課によると、久保さんは18日から3泊4日の予定でショートステイを利用していた。19日昼以降、久保さんの顔にあざができているのに複数の職員が気づいていたとみられるが、福沢容疑者は当初、施設側に「柵にぶつかった」と報告していたという。

20日になって久保さんの容体が悪化し、訪問医が診察したところ脳内出血が疑われる状態だったため、施設側が119番。病院側の通報で、暴行を受けた可能性が発覚した。

久保さんはこれまでも度々ショートステイを利用しており、福沢容疑者は警視庁の任意聴取に対し「以前からつねられることがあった」と話したという。

介護施設で利用者死亡、職員逮捕 「つねられて腹が立ち、殴った」(毎日新聞) – Yahoo!ニュース

考察:容疑者発言「以前からつねられることがあった」

介護職員が利用者の顔を殴る暴行を加え死亡させたという大変悲しい事件です。被害者の方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

容疑者は「以前からつねられることがあった」と話していますが、介護現場で利用者から暴行を受けることはよくある話だと思います。利用者が認知症を患っている場合、判断能力などを失い、職員に対して暴力行為に出てしまうことが多々あります。

しかし「病気が原因でやっていることだから介護職員は我慢しなければいけない」というのは間違いです。介護職員も人間です。このような問題には職場全体で対策を考える必要があります。利用者からのハラスメント対策についてはこちらの記事をご参照ください。

【介護のカスハラ】我慢すべき?利用者の暴言、暴力、セクハラを防ぐ4つの対策 介護士のみなさんは利用者から暴言や暴力、セクハラを受けたことはありますか?多くの介護士が「ある」と答えると思います。現場では利用者から...

だからといって虐待はあってはならないもので、容疑者の犯行は決して許されるものではありません。

②利用者を引き倒し骨折させた事件/札幌市/2023年

2つめに引用するのは利用者を床に引き倒し、骨折させてしまった事件です。

札幌市中央区の特別養護老人ホームで入所していた87歳の女性を床に引き倒し骨折させた疑いで元介護職員の43歳の女が逮捕されました。

傷害の疑いで逮捕されたのは札幌市北区の元介護職員=林純子容疑者43歳です。林容疑者は6日午前0時半前、札幌市中央区北1条東19丁目の特別養護老人ホームラ・スール苗穂リバーサイドで、入所していた87歳の女性を床に引き倒しけがを負わせた疑いが持たれています。女性は右足の太ももの骨を折る重傷です。

警察によりますと林容疑者は施設の中を1人で巡回していたということです。朝になり女性が施設の別の職員に痛みを訴え事件が発覚しました。警察の調べに対し林容疑者は「夜中言うことを聞かず歩き回るからイライラしてやった」と容疑を認めているということです。

「イライラして…」特養老人ホームの入所者女性(87)を骨折させたか 元介護職員の女を逮捕 札幌市 HTB北海道ニュース

考察:容疑者は施設内を1人で巡回していた

介護職員が利用者を床に引き倒し骨折させるという信じられないような事件です。被害者の方の回復を心よりお祈り申し上げます。

容疑者は夜間に施設内を1人で巡回していたということで1人夜勤、いわゆるワンオペの可能性があります。

職員1人の体制だと誰か1人の利用者に対応している時は、別の利用者からコールがあっても対応することができません。2人、3人の利用者から同時にコールが鳴ることもあります。その場合、優先順位を考えて順番に対応するしかありません。しかし対処方法が職場内で検討されていなければ職員にかかるストレスは大きなものとなるでしょう。さらに歩き回って見守りが外せない利用者がいたら、どう対応すれば良いのか分からなくなりそうです。

だからといってこの容疑者のように利用者を床に引き倒すことは絶対にしてはいけません。もし利用者が認知症を患って徘徊しているとしたら、利用者を否定するのではなく、相手の立場に立ってケアをする必要があります。

③入居者の顔をタオルで殴った事件/姫路市/2020年

3つめに引用するのは入居者の顔をタオルで殴り、軽傷を負わせてしまった事件です。

兵庫県姫路市の介護付き有料老人ホームで入居者の女性の顔をバスタオルで殴ったとして元職員の男が逮捕されました。

傷害の疑いで逮捕されたのは姫路市龍野町の介護職員の男(27)です。
警察によりますと男は2018年10月、当時勤めていた姫路市西今宿の介護付き有料老人ホーム「アーバンリビング今宿」で入居者の女性(93)の顔をバスタオルで殴り、軽傷を負わせた疑いが持たれています。

男は事件当時、女性の顔に内出血があるのを見つけた施設への聞き取りに対し、「女性が転倒した」と話していたものの、2020年7月に殴ったことを認めたということです。

施設から説明を受けた女性の親族が11月4日に被害届を提出していました。
警察の調べに対し、男は「女性が引っかいたりかんだりしたので体を拭いたタオルで殴ってしまった」と容疑を認めているということです。

入居者への傷害容疑で元職員逮捕 姫路の老人ホーム – サンテレビニュース (sun-tv.co.jp)

考察:容疑者発言「女性が引っかいたりかんだりした」

入居者の顔をバスタオルで殴り軽傷を負わせた事件です。被害者の方の恐怖、不安ははかり知れず、決してあってはならないことです。

容疑者は「女性が引っかいたりかんだりしたので体を拭いたタオルで殴ってしまった」と話しています。体を拭いたタオルで殴ったということは、入浴介助中の出来事だったと推測されます。ひっかく、噛むということは職員にも相当の傷があったのではないでしょうか。

入浴介助に関しては拒否する利用者も多いのが現状です。認知症を患っている利用者なら、介助に抵抗して職員に暴行してくる可能性もあるでしょう。このような場合は介助を無理強いしてはいけません。利用者の意向を尊重して上手に入浴へ誘導することが必要です。しかし利用者の気持ちを無視して職員中心の介助をすると、かえって強い拒否が起きてしまいます。

「不適切ケア」を予防すれば虐待を防ぐことができる

以上、虐待の背景には介護職員の過剰な心身の負担や、介護方法の検討不足が隠れている可能性を指摘しました。では、どうやって虐待を防げば良いのでしょうか。

一つは「不適切ケア」を早期発見することです。不適切ケアは「虐待とは言えないが、利用者の尊厳やプライバシーを損なう恐れのある職員による言動」と定義されています。具体例は、以下のようなものです。

  • 利用者に友達感覚で接したり、子供扱いする
  • 利用者に対して、威圧的な態度、命令口調(「○○して」「ダメ!」など)で接する
  • 利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触る
  • 利用者に食事や入浴などの介助を無理強いする
  • 他者から見える位置で、利用者の衣類の着脱や排泄、入浴の介助をする

不適切ケアが徐々にエスカレートすると、最終的に虐待に発展する可能性があります。不適切ケアを早期発見し予防することで、虐待の発生を防ぐことができるのです。

不適切ケアを発見するためにはチェックリストの活用が有効です。詳細は以下の記事をご参照ください。

【不適切ケアは虐待の芽】早期発見する方法&予防のための5原則 不適切ケアという言葉を聞いたことがありますか?不適切ケアの延長には虐待があるため、虐待の芽とも言われます。不適切ケアは利用者の尊厳を損...

まとめ:不適切ケアを早期発見して虐待を防ごう

介護職員による虐待について報道された3つの事件を引用し、背景について考察しました。また虐待予防のため、不適切ケアを早期発見する重要性について解説しました。

虐待の背景には介護職員の心身のストレスや、介護方法の検討不足が隠れている可能性があります。同じ環境に置かれていたら、自分も虐待していたかも…と思う人もいるかもしれません。でも、だからといって虐待は絶対にしてはいけないことです。

介護職員に過度な負担がかからないよう職場のみんなでサポートし合い、虐待の発生を防いでいきましょう。

職場でのサポートが得られない場合は転職も視野に入れて

職場に協力し合う風土が無く、自分だけに過度な負担がかかっているという場合は職場を変えることも検討してみてください。ストレスに耐えかねて虐待や不適切ケアをしてもいけませんが、燃え尽きて介護の仕事を辞めてしまうのも非常に悲しいことです。そうなる前に職場を変える(転職する)ことをおすすめします。今、介護業界は引く手あまたであり、あなたに合う職場が見つかる可能性が高いです。良い転職をするには介護専門の転職サイトを使うと効果的です(※完全無料です)。理由はこちらの記事をご参照ください。

介護の転職エージェントとは?特徴や使い方、どんな人にオススメか解説します 『介護の転職エージェント』がどのようなものかご存じですか?広告などで見かけたことがあるかもしれませんが、くわしく理解している人は意外と...

誰にも相談できない場合はラブカイゴへお問い合わせください

虐待や介護職場の問題について誰にも相談できる人がいないという介護職員の方は、ラブカイゴまでお問い合わせ頂ければ幸いです。無料で相談、就労サポートさせて頂きます。

>>ラブカイゴお問い合わせフォーム

新聞やテレビなどで悲しい事件を見ると本当に切ない気持ちになります。介護の職場から虐待がなくなることを心から願っています。

参考文献

介護施設で利用者死亡、職員逮捕「つねられて腹が立ち、殴った」(毎日新聞)- Yahoo!ニュース,2023

「イライラして…」特養老人ホームの入所者女性(87)を骨折させたか 元介護職員の女を逮捕 札幌市 HTB北海道ニュース,2023

入居者への傷害容疑で元職員逮捕 姫路の老人ホーム – サンテレビニュース,2020