介護環境

【徹底解説】タクティール🄬ケアとは?認知症で悩む介護職員に使って欲しい技術

【PR】「ラブカイゴ」は複数の企業とアフィリエイトプログラムを提携しています。当記事は参考文献や筆者の経験などにもとづき執筆しており、情報の根拠を明示しています。

介護職員のみなんさんは認知症の人の対応に悩んでいませんか?

認知症の人は「帰りたい」と施設から出ていこうとしたり「あの人に物を盗られた」と妄想を繰り広げるなど職員がびっくりするような行動をとります。訂正しようとするとかえって行動がエスカレートして、収拾がつかなくなることも多々あります。

認知症の人が穏やかに過ごせるための介護技術はさまざま検討されていますが、ここ数年、タクティール🄬ケアという技術に注目が集まっているのはご存じでしょうか?

私はタクティール🄬ケアのセラピストの資格を持っており、介護現場で10年以上タクティール🄬ケアを施術してきました。タクティール🄬ケアによって認知症の人が穏やかになる場面を何度も経験しています。

この記事ではタクティール🄬ケアについて解説します。施術する時の工夫やチームでアプローチする方法なども紹介するので、認知症ケアで悩んでいる介護職員の人に参考にしてもらえたら嬉しいです。

タクティール🄬ケアはコミュニケーション技法の1つ

タクティール🄬ケアはスウェーデン発祥の「皮膚に柔らかく触れる」ケアです。

背中や手足を両手でやわらかく包み込むように、優しく密着感をもって撫でるように触れていく手技であり、肌と肌の触れ合いによるコミュニケーション技法とも言えます。

「タクティール」はラテン語の「タクティリス(Taktilis)」に由来する言葉で「触れる」という意味があります。タクティール🄬ケアは株式会社日本スウェーデン福祉研究所(JSCI)が商標登録しており「タクティール🄬ケア」と表記されます。

特別な器具や道具は必要なく、必要なものは私たちの「手」のみです。介護や看護の資格が無くても、誰でも学べるケアなのです。

一例として背中のタクティール🄬ケアのやり方をご紹介しましょう。手順は次のとおりです。(出典:認知症高齢者へのタクティールケアのリラックス効果の検証

  • 相手の方に両手を軽く置く。
  • そのまま両手を揃え、肩甲骨と肩甲骨の間までゆっくり下す。中央から背中の外側に向かい、時計まわりの方向でゆっくり円を描きながら、
  • そのまま両手を揃え、屑甲骨と屑甲骨の間までゆっくり下ろす。中央から背中の外側に向かい、時計まわりの方向でゆっくり円を描きながら、背中全体が大きな楕円で覆われるまで、背中のラインに沿って行う。
  • 背中の外側まで触れたら相手の首の下で手を止め、そのまま両手を揃え、背中の中央までゆっくり降ろす。次に片手ずつ交互に使い、背中の中央から外側に向かって時計まわりに放射線状になでていく。背中のいちばん外側のラインまでしっかり触れる。
  • 腰の中央の低い位団で両手を止める。そこから両手をそろえ、脊柱に沿って腰から首へと向かう。
  • 首の下で両手を左右に開き、背中のいちばん外側のラインをたどりながら下に降ろしていく。腰の中央の位圃で両手を再びそろえる。同じ動作を3回繰り返す。
  • 腰の中央の低い位団で両手を止める。
  • 腰の位囲から首に向かってハート型を描くように、背中全体をなでていく。肩の位固では、5回繰り返す。
  • 首の両側に両手をしばらく図く。
  • 両手を揃えたまま、背中を側面から反対側の側面に向かって流れるような動きで、少しずつ下に降りていく。
  • 肩のところまで終わったら、そのまま腰の中央の低い位歴で両手を止める。
  • 腰の中央の低い位砥で止めた、その両手を横向きにする。
  • その手を横向きにした片方の手を腰の低い位団に残す。もう一方の手を首の後ろにしっかりと図き、そこから腰に当てた手に向かって、脊柱に沿って降ろしていく。次に、降ろした手を腰の低い位固に残し、もう片方の手を右肩に冠き、そこから背中の外側のラインに沿ってゆっくりと降ろす。再び手を入れ替え、左肩も同様に行う。
  • 両手をそろえ、肩甲骨と肩甲骨の間までゆっくり上げる。中央から背中の外側に向かい、時計まわりの方向でゆっくり円を描きながら、背中全体が大
  • きな楕円で覆われるまで背中のラインに沿って行う。
  • すべてのケアが終了したら、相手の肩に両手を軽く画き、終了を告げるとともに「ありがとうございました」と、触れさせてもらったお礼を言う。

背中のタクティール🄬ケアを図示すると以下のようになります。

出典:認知症高齢者へのタクティールケアのリラックス効果の検証

タクティール🄬ケアの効果

タクティール🄬ケアにどのような効果があるか、具体例をみてみましょう。

気持ちよかった/心が穏やかになった

  • リラックスできるようになった
  • 不安な気持ちが改善し、安心感が得られた
  • 暴力や暴言などの行動が減り、穏やかになった
  • 不穏な言動や行動が少なくなった

痛みが和らいだ/体の調子が良くなった

  • 痛みが治まった
  • 筋肉のこわばりが無くなった
  • 倦怠感が消失した
  • よく眠れるようになった
  • 心拍数が落ち着いた
  • 腸の動きが良くなった
  • 抗不安薬の内服が減少した

意欲が高まった/人との関りが増えた

  • 排せつや食事が自力でできるようになった
  • 徘徊が減ってレクリエーションへの参加ができるようになった
  • 介護者への抵抗が少なくなり、自らスタッフへ近づいてくるようになった
  • 患者とタクティール®ケア施術者との心の繋がりが強化された

タクティール🄬ケアをしている介護者にも良い効果がある

タクティール🄬ケアを施術している介護者にも同様の良い効果があると考えられています。介護者がタクティール🄬ケアで相手に触れることで、介護者自身も肌の接触によりオキシトシンが分泌されたり、ゲートコントロール理論が適用されるからです。

実際に介護者から「心と心の共有ができて、自分自身も癒された」「自分自身も穏やになり感謝の気持ちでいっぱいになる」などの言葉が多く聞かれています。

タクティール🄬ケアの科学的根拠は2つ

タクティール🄬ケアは心地よさや安心感、痛みの軽減をもたらしてくれます。その根拠と考えられているのが①オキシトシンホルモンの分泌と②ゲートコントロール理論です。

根拠1:オキシトシンホルモンの分泌により不安が軽減

オキシトシンは脳で産生されるホルモンの一種で、精神的な安らぎを与えストレスを軽減させる作用があります。

タクティール🄬ケアで肌に触れるとき、皮膚にある触覚が刺激され、脳から血液中にオキシトシンが分泌されることで不安やストレスが和らぐというメカニズムがあると考えられます。

さらに近年の研究ではオキシトシンホルモンは肥満予防(食べすぎ予防)や社会行動の促進等、介護上の様々な問題の改善に関連していることが分かってきました。

出典:ストレス・摂食・社会行動の相互作用 : オキシトシンの働き

根拠2:ゲートコントロール理論により痛みが軽減

ゲートコントロール理論とは、体の痛みは脊髄にあるゲート(門)を通って脳に伝わるという学説です。

ゲートが開いていれば脳は痛みを感じますが、反対にゲートが閉じていれば痛みを脳に伝えることができません。タクティール🄬ケアで肌に触れることが触覚刺激となり、脊髄のゲートが閉じて痛みが和らぐというメカニズムです。

出典:脊髄後角における感覚伝達とゲートコントロール理論を考える

タクティール🄬ケアの効果を高める工夫2点

タクティール🄬ケアの効果を高めるポイントを2つご紹介します。

1点目は対象者が落ち着ている時間帯にタクティール🄬ケアを提供することです。不穏が強いと効果は出にくくなります。落ち着ている時間にこそコミュニケーションをとることが重要であり、接触を増やすことで不穏を防ぐ効果が期待できます。

2点目は対象者の慣れた環境でタクティール🄬ケアを実施することです。静かな場所で提供することも重要ですが、なじみのない個室で施術するより多少にぎやかでも慣れた環境で実施した方が良い効果が見られます。

継続するためにはチームの協力が必要

タクティール🄬ケアは単発で終わらせるのではなく、継続した方が効果を期待できます。しかし職員が不足していたり介護の時間が十分とれないためタクティール🄬ケアを継続して提供できない現場も多いようです。

慢性的な人手不足が続く介護業界では、十分な人員配置を望むことは叶わないでしょう。それでもタクティール🄬ケアを継続するためには、施術する予定の日は「なにがなんでもタクティール🄬ケアを実施する」という強い意志が必要です。

この意識をチーム全体で共有しておくと、施術する職員としない職員がお互いにサポートし合うことができ、チームで継続してタクティール🄬ケアを提供することができます。

継続したかかわりにより認知症の利用者の不穏が軽減されれば、結果的に仕事の効率がアップし、人手不足の解消にもつながるでしょう。

タクティール🄬ケアの課題:科学的検証が不十分

一方でタクティール🄬ケアには課題も残されています。効果に対する研究報告が増えてきていますが、効果を科学的に検証した研究はまだ少ない状況なのです。

今後、介護場面で活用されていく中で、介護者の観察や主観的な感覚だけでなく、身体面の測定データやリラックス状態の評価ができる測定器具などを用いて、効果の証明を図っていくことが必要とされています。

タクティール🄬ケアの施術には認定資格が必要

タクティール🄬ケアの施術には一定の圧力や速度、決まった手順で撫でるように触れていく手技を求められます。

施術するには認定資格が必要です。所定の研修と実習を経ることで認定資格を取得することができます。研修は誰でも受講することができ、キャリアパスを進めていくと開業もできるようになります。

日本スウェーデン福祉研究所(JSCI)が資格を認定しており、詳細についてはホームページをご参照ください(タクティール®ケアを学ぶ – 日本スウェーデン福祉研究所(JSCI))。

まとめ:タクティール🄬ケアを介護現場で活用しよう

この記事ではタクティール🄬ケアについて解説し、効果を高める工夫やチームで継続してタクティール🄬ケアを提供する方法などをご紹介しました。

認知症の人が穏やかになる効果を期待できるタクティール🄬ケア。ぜひ介護の現場に取り入れ、チームで提供してみてください。

タクティール🄬ケアを学べる職場で働きたい人へ

タクティール🄬ケアを提供してみたいけど、今の自分の職場では研修に行くこともできないという介護職員も多いと思います。

自分の理想とする介護を提供するには、職場環境は重要です。今の職場では全然成長が見込めないという場合、思い切って職場を変えるという選択肢も考えた方が良いかもしれません。まずは自分が学べる環境に身を置きましょう。

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参考文献/URL

株式会社日本スウェーデン福祉研究所(JSCI)ホームページ

認知症高齢者へのタクティールケアのリラックス効果の検証,上田雪子 他,鹿児島国際大学福祉社会学部論,2018

ストレス・摂食・社会行動の相互作用 : オキシトシンの働き,尾仲達史,第54回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(横浜),2013

オキシトシン神経系を中心とした母子間の絆形成システム ,永澤美保 他,The Japanese Journal of Animal Psychology,2013

痛みと鎮痛の基礎知識-痛みの学説と電気刺激治療の歴史-,小山なつ,理学療法学,2013

脊髄後角における感覚伝達とゲートコントロール理論を考える,土井篤,保健科学研究,2017

タクティール®ケアが認知症高齢者の行動・心理症状に及ぼす効果,澁谷将成 他,日農医誌,2019

日本における「タクティールケア」に関する文献検討,緒方昭子 他,南九州看護研究誌,2013

タクティールケアのリラクセーション効果の検証と看護への応用,礪波 利圭 他,福井大学 重点研究成果集2011 ー明日への挑戦ー,2011

タクティールケア実践記録からみる効果の内容分析,小泉由美 他,日本看護研究学会雑誌,2012

看護学生が捉えたタクティールケアの持つ力-はじめて手技を学んだ学生のレポート分析-,中澤 明美 他,了德寺大学研究紀要,2016