介護環境

【介護職員の腰痛事情】予防に効果的な体操、福祉用具なども紹介

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あなたは腰に痛みをかかえていませんか?

利用者を抱え上げる時など、介護はなにかと腰に負担がかかる仕事です。一度腰を痛めるとクセになってしまい、何度も痛みを繰り返す場合もあります。ただでさえ重労働の介護なのに、腰痛があるとなおさら大変です。

実は腰痛予防として個人で取り組めることはたくさんあります。しかし最も重要なことは職場全体で腰痛予防に取り組むことです。

私は介護の現場で15年以上働いてきましたが、今は職場全体で腰痛予防対策に取り組んでいます。腰痛を完全にゼロにすることは難しいですが、適切な対策をとれば介護職員の負担は明らかに軽くなります。

この記事では介護職員の腰痛事情や、予防対策、職場全体で対策するために必要なことなどについて解説します。腰痛で悩んでいる介護職員の人に参考にしてもらえたら嬉しいです。

介護職員で腰痛のある人は5~8割

介護職員の腰痛に関しては様々な調査がされており、55~80%の介護職員に腰痛の訴えがあると報告されています。

さらに「ほとんどいつも腰が痛い」と訴える介護職員が14.4%いるという研究結果があり、痛みを感じつつ仕事や家事を行っている人も多いことが想像されます。仕事のみならず日常生活にも支障をきたしている深刻な状況です。

また腰痛が無いと答えた介護職員のほとんどが、介護の仕事についてから2年未満であるという調査があります。一方腰痛があると答えた介護職員の多くが、介護の仕事についてから2年以内に腰痛を発症しています。つまり介護の仕事についた直後は腰痛が無くても、そのうちに腰を痛める可能性が高いと考えられます。

腰痛になりやすい理由1:腰部への負担が大きい

腰痛発症の原因動作割合(%)
移乗時54.5
風呂介助時18.2
無理な姿勢18.2
その他9.1
出典:介護者の腰痛事情 峯松亮,日本職業・災害医学会会誌,2004

介護職員が腰痛を発症する動作は移乗介助が圧倒的に多く、54.5%という調査結果が出ています。移乗介助は前かがみ姿勢で瞬間的に大きな力を出すため、腰への痛みが生じやすい動作です。

腰部の筋肉への負担を調査したところ入浴介助、排泄介助、移乗介助の順に負担が高かったという研究結果もあります。入浴介助は長時間にわたって行われるため、腰への負担も大きくなるということでしょう。

日本では男性労働者が持ち上げられる重さは、体重のおおむね40%までに努めることとされています。女性の場合は、男性の6割程度の重さです。

体重60㎏の男性職員であれば24㎏の重量までしか抱え上げることができないということです。女性職員であれば15㎏程度です。移乗介助の時に利用者を抱え上げることを考えれば、明らかに重量オーバーです。たとえ2人の介護職で介助したとしても腰への負担は大きく、課題は残ります。

腰痛になりやすい理由2:業務が多忙

出典:介護者のための腰痛予防マニュアルー安全な移乗のためにー 岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008

職員が少なく時間的に余裕がない状況では、時間短縮のために無理な作業をしてしまう可能性が高くなり、腰への負担も大きくなります。

さらに同僚や上司と相談したり介助内容を検討したりすることがないと、このような不適切な介助がルーチンとなり、腰への負担はますます大きくなります。

介護現場の多くが人手不足で業務多忙な状態です。この状況では施設側がいくら介助方法を指導しても適切な介助は実践できません。

腰痛になりやすい理由3:心理的・社会的ストレス

介護職員は弱い人の立場を守る仕事であり、役割や責任感を求められることから精神的なストレスを感じることも多いと思います。

ストレスがあるとドパミンシステムという脳の機能が不調をきたし、痛みを感じやすくなるという研究結果があります。実際に腰痛のある介護職員は腰痛だけでなく疲労感や身体の不調を訴える傾向があり、精神的な面から痛みを引き起こしている可能性が少なからずあります。

また腰痛のある介護職員は「困った時に上司が頼りになる」と答える人が少ないという調査結果があります。一人で仕事を頑張ってしまう人が多いようです。

さらに「仕事や生活の満足度が低い」「勤務体制が不規則」などの状況では腰痛が長引きやすいという研究結果もあります。

また「上司からのサポートが少なく仕事の満足度が低い」という状況では「仕事に支障をきたす腰痛を発症する危険が高まる」という調査結果も出ています。

これらの研究結果から、腰痛の原因は心理的・社会的ストレスの可能性もあると言えるでしょう。

あなたの腰痛の程度を確認する方法:RDQ日本語版

あなたは腰痛がありますか? あるとすればどの程度でしょうか?

腰痛の程度を測るアンケートに「Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)日本語版」というものがあります。

一例を下記に挙げますので質問に「はい」「いいえ」で答えてみて下さい(出典:介護福祉士の腰痛に関する研究)。「はい」と回答した項目が多いほど腰痛の程度が重い状態です。

  • 「腰痛を和らげるために、何回も姿勢を変える」
  • 「腰痛のため、いつもよりゆっくり歩く」
  • 「腰痛のため、人に何かしてもらうよう頼むことがある」
  • 「腰痛のため、靴下やストッキングをはくとき苦労する」
  • 「腰痛のため、あまりよく眠れない」

これらの質問に「はい」と答えた項目が多かった人は注意が必要です。

RDQ日本語版の全質問は以下からダウンロードできますので、よろしければ参考にしてください。

続いて腰痛対策について解説していきます。

腰痛にきく体操

体操は腰痛予防に有効とされています。

特に仕事が始まって間もない時間帯は心身ともに動き出すのに時間がかかります。仕事前の体操で身体を目覚めさせ、不意の動作などに対応できよう準備しましょう。

また仕事中・仕事後の体操も重要であり、入浴後などにストレッチで筋肉を伸ばすことも腰痛予防に役立ちます。

腰痛にきく体操が理学療法士協会の広報誌に紹介されています。

すでに医療機関を受診している場合は医師の指示に従ってください。

また急に始まった腰痛では体操により症状を悪化させる可能性があります。

痛みが強い場合は無理せず、医療機関を受診して下さい。

腰を反らす

出典:広報誌 笑顔をあきらめないNo.25 特集「腰痛に関する新たな常識!重症化を防ぐために」(p.4-5)公益社団法人 日本理学療法士協会 (japanpt.or.jp)

腰をかがめる

出典:広報誌 笑顔をあきらめないNo.25 特集「腰痛に関する新たな常識!重症化を防ぐために」(p.4-5)公益社団法人 日本理学療法士協会 (japanpt.or.jp)

腰を横に曲げる

出典:広報誌 笑顔をあきらめないNo.25 特集「腰痛に関する新たな常識!重症化を防ぐために」(p.4-5)公益社団法人 日本理学療法士協会 (japanpt.or.jp)

実際にやってみると腰が楽になる感じが分かると思います。だれでもすぐにできるシンプルな体操なので、仕事の前後や休憩時間にやってみましょう。腰痛が無い人でも、予防的に体操することが大切です。

福祉用具を活用した腰痛予防

福祉用具を使えば前かがみや要介護者の抱え上げをしなくても移乗などの介助ができるようになり、腰への負担を減らすことができます。

福祉用具を導入している施設では重度の腰痛を持つ介護士は1割程度しかいないという報告があります。福祉用具は腰痛予防に有効であり、積極的に使用するべきです。

下図は介護リフトを使用しているところの図です。

出典:介護者のための腰痛予防マニュアルー安全な移乗のためにー 岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008

続いてスライディングボードを使い移乗介助をしている図です。

出典:介護者のための腰痛予防マニュアルー安全な移乗のためにー 岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008

このように福祉用具の活用により介護者の腰を守ることができます。福祉用具の活用に関して詳細はこちらの記事をご参照ください。

介護職員の体への負担を減らす福祉用具3選!導入までの5ステップも解説 「移乗介助をしていると腰や肩が痛くなる」そう感じる介護職員は多いと思います。移乗介助は前かがみの姿勢で瞬間的に大きな力を入れるため、体...

腰痛予防には質の良い睡眠や休息が必要

質の良い睡眠をとっている介護職員は腰痛を訴える割合が少ないという調査結果があり、腰痛予防には睡眠時間を十分確保することが重要だと考えられています。

介護職員は交代制で働くことが多く、特に夜勤者にとっては睡眠時間の確保は課題です。腰痛予防のためにも睡眠、休息のとり方については見直していく必要がありそうです。

出典:介護者のための腰痛予防マニュアルー安全な移乗のためにー 岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008

職場全体で腰痛予防に取り組むためには

欧米諸国の研究では介護リフトなどの福祉用具を現場で活用することで、介護者の腰痛や欠勤日、労災補償費が減少するという報告があります。

これは介護職員個人にとっても、職場全体にとっても非常に有意義なことです。

福祉用具を活用し腰痛予防を図るには介護者の意識改善はもとより、組織として職場全体で取り組むことが重要です。具体的には以下のような内容です。

  • 介助方法を定期的に再確認する体制
  • 介助に問題点がないか把握確認
  • 問題があれば改善策を検討
  • 職員指導の徹底
  • 適切な人員配置(介助に十分な時間をとれる)

また心理的、社会的ストレスへの対応策としても、上司や同僚のサポートなど組織的な取り組みは必須です。腰痛が強い場合など、一時的に配置を配慮してもらうなどの調整も必要でしょう。

腰痛予防のために職場全体で取り組むことは、口で言うのは簡単ですが、実際にやってみると非常に難しいことが分かります。

実現するためには施設管理者のリーダーシップが不可欠です。施設管理者自身が腰痛予防への意識を高め、組織の先頭に立ち旗をふらなければ職場全体で腰痛予防に取り組むことはできないでしょう。

介護職員のみなさんが腰痛にならないように、少しでも腰痛を良くするために、同僚や上司、施設管理者とよく話し合い、施設全体で腰痛予防に取り組んでください。

まとめ:職場全体で腰痛対策に取り組もう

介護職員の腰痛事情や、予防対策、職場全体で対策するために必要なことなどについて解説しました。

腰痛にきく体操を実施したり、福祉用具を活用して腰痛予防に気をつけてください。また職場全体で腰痛予防に取り組むことが最重要であり、同僚や上司、施設管理者とよく話し合って欲しいと思います。

職場が腰痛予防の配慮をしてくれない場合は転職も考えて

職場によっては腰痛予防に対して全く配慮してくれない場合もあるでしょう。職場の対応に納得がいかなければ職場を変える(転職する)のも一つの手段です。

あなたが働き続けるためにも、あなた自身が腰痛に配慮し健康であることが大切なのです。今、介護業界は人手不足で介護職員は引く手あまたであり、自分にあった職場を見つけられる可能性が高いと言えます。

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参考文献/URL

職場における腰痛予防対策指針及び解説 厚生労働省,2013

福祉用具を導入した高齢者介護施設における介護者の腰痛発生要因 岩切一幸 他,産業衛生学雑誌,2016

高齢者介護施設における組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響 岩切一幸 他,産業衛生学雑誌,2017

介護者のための腰痛予防マニュアルー安全な移乗のためにー 岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008

広報誌 笑顔をあきらめないNo.25 特集「腰痛に関する新たな常識!重症化を防ぐために」(p.4-5)公益社団法人 日本理学療法士協会 (japanpt.or.jp)

介護老人保健施設職員の移乗関連用具に対する認識及び腰痛との関連 朝倉弘美 他,理学療法科学,2013

介護福祉士の腰痛に関する研究,武田啓子 他,jaccw,2016

介護業務およびその実践方法とケアワーカーの腰痛の関連性について 向井通郎,老年社会科学,2011

介護者の腰痛事情 峯松亮,日本職業・災害医学会会誌,2004