NHK福祉ポータルサイト『ハートネット』の公式Twitterアカウントが「男性から入浴や排泄の介助を受けることは、性犯罪被害に遭っているのと変わらない」という趣旨のツイートを発信したことで炎上騒ぎになっています。
「性犯罪」とは過激な表現に感じますが、実際に介護現場で働く男性はサービス利用者や同僚、社会からどう思われているのでしょうか?
私は15年以上、医療・介護の現場で働いてきました。男性介護士には、男性だからこそ寄せられる期待もたくさんあります。男性には男性のメリット、女性には女性のメリットがあり、お互いが協力して介護の仕事をすることがとても重要だと思います。
この記事では批判が殺到したツイートのポイントである『異性介助』と『同性介助』について解説します。また男性介護士をとりまく現状と、男性ならではの活躍ポイント4つをまとめました。ぜひ最後までお読み頂き、明日からの仕事に活かしてもらえたら嬉しいです。
- 客観的発言
- 仲良しグループや派閥を作らない
- 男性利用者からのセクハラ対策
- 力仕事
それでは順番に解説していきます。
NHK「性犯罪」ツイート炎上問題のポイントは『異性介助』
問題となったツイートの全文はこちらです。
「女性障害者が 男性から入浴や排泄介助を受けることは 単なる羞恥心の問題ではありません 尊厳の問題です 心身共にナイフで ズタズタにされる感覚でした 性犯罪被害に遭っているのと 感覚は変わりありません」
仕事として介助をしている男性介護士を性犯罪者扱いし、イメージを悪くする印象を受ける人もいるでしょう。このツイートに対して「介護者を悪者にするな」とか「男性ヘルパーの尊厳は無視ですか?」などの批判が多数寄せられています。
「性犯罪」という言葉は過激な表現です。「性的自己決定権を侵害されている」などの表現だったら、ここまで炎上しなかったかもしれません。もしくは男性介護士の批判ではなく、介護現場の人手不足に焦点を当ててツイートを発信することもできたでしょう。
ただ、実際に女性障害者が「性犯罪と変わりない」と感じたことも事実でしょう。DPI女性障害者ネットワーク(東京都)の調査によると、入所施設などの障害者たちから「女性性を踏みにじられている」「障害者は性のないものとして扱われている行為に、とても傷ついた」といった声が上がっています。
異性介助と同性介助
異性に介助されることを『異性介助』、同性に介助されることを『同性介助』と言います。NHKのツイートはこの問題を取り上げたものですが、異性介助や同性介助については厚生労働省も注意を払っています。
例えば障害者虐待の防止と対応の手引には「本人の意思に反した異性介助を繰り返す」ことは『心理的虐待』の具体例の1つとして挙げられています。
また放課後等デイサービスガイドラインには「着替えや排泄の介助等については、同性介護を基本とする等、配慮することが求められる」という記載があります。
異性介助・同性介助は介護を受ける人の意見が尊重されるべきであり、介護士は羞恥心に配慮しなければいけません。これは女性のみならず、男性の場合でも同じです。
しかし実際は同性介助が徹底されていません。
例えば身体障害者施設の排泄介助において同性介助に限定されていない女性が約13%いるのです。
さらに男性だと43%にものぼります。介護現場の人手不足が原因で、同性介助できる体制が整えられていないのです。
男性介護士をとりまく現状
今回のツイートでは男性介護士に焦点が当てられましたが、実際の現場で男性介護士をとりまく現状はどのようになっているのでしょうか。
介護施設職員の男性の割合は31.9%となっており、女性の半分程度です。女性の割合が圧倒的に多く、介護士の環境は女性職場といえます。
しかし国際比較をしてみると欧米諸国の男性介護士の割合は15%弱とされています。実は日本の男性介護士の割合は相当に大きいのです。なぜ諸外国と比べ日本の介護士は男性の割合が高いのでしょうか。
理由として介護士の賃金や雇用形態が安定していることが挙げられています。さらに介護労働者全体では男性は女性よりも賃金が高い傾向があり、正職員の割合も高くなっています。特に施設介護職員は他の介護分野よりも比較的条件が良く、男性介護士の就職が進んでいます。さらに管理者などの役職者も男性の方が多く、出世の機会も多く与えられていることが分かります。
介護士の出世に関してはこちらの記事も参考にしてください。
男性介護士として働いていて感じられるメリットは以下のようなものがあります。
- 移乗介助などで安心感があると言われる
- 送迎(自動車運転業務)で頼りにされる
- 男性利用者の同性介助ができる
- 女性の利用者(高齢者)が喜んでくれる
反対に男性介護士として働いていて感じられるデメリットは以下のようなものがあります。
- 女性のようなきめ細やかさが難しいと感じる
- (特に男性の)利用者から厳しい対応をとられる
- 女性が多い職場で人間関係の難しさを感じる
男女で仕事に差はない
男性介護士をとりまく現状について説明しましたが、性別によって仕事に違いがあるのは差別だと考える人もいるでしょう。「介護士という仕事において男女に差はない」と考えるのが当然だと思います。
しかし、男女には明確な身体的特徴、性差があります。利用者の同性介助にも配慮が必要です。性別に限らずケアチームには多種多様な人材がいます。その中でお互いの特徴やメリットをどう活かし、デメリットをどう減らすのかを考えることは重要だと思います。
それを踏まえたうえで男性介護士ならではの活躍ポイントを4つご紹介します。
男性介護士ならではの活躍ポイント4つ
客観的発言
一般に女性は直感や感覚でものごとを判断し、男性は論理的にものごとを整理する傾向があると言われています。介護の仕事において直感や感覚は非常に重要です。
ただ会議などで男性介護士として論理的・客観的な発言をまじえると、ケアチームに幅広い視点を作り出すことができます。チームとして良い介護に近づくことができるでしょう。
仲良しグループや派閥を作らない
一般的に女性は会話による協調性を大切にすると言われています。介護の仕事において協調性は最も大切なことです。一方、協調性を重要視するあまり仲良しグループや派閥ができてしまうこともあります。仲間に配慮するあまり、思っていることが十分伝えられないという状況もよく目にします。
特定の仲良しグループや派閥を作らずに、男性として中立なスタンスを保つことでギクシャクせずにチームを運営することができるでしょう。
男性利用者からのセクハラ対策
女性介護士は男性利用者からのセクハラに悩まされることがあります。介護士は身体の接触が多い仕事です。さらに入浴介助や排泄介助などもあり、セクハラをされてしまう機会が多いのです。
セクハラの多くは男性介護士のいない場面で行われます。女性介護士は毅然とした態度でセクハラを拒否しなければいけません。しかしそれとは別に男性介護士からセクハラを止めるようはっきりとした態度で伝えることで、利用者にことの重大さを示すことができます。抑止力が効果的に働くのです。
またセクハラが想定される利用者には、あらかじめ同性の介護士のみで関わることが最も有効です。
力仕事
やはり力仕事においては女性より男性の方が有利です。移乗などの介助はもちろん、介護備品の補充で重い段ボールを運ぶなど様々な仕事があります。男性は力仕事で活躍する機会がたくさんあるのです。
ただ、なんでも力まかせに働くと腰痛など身体への負担が大きくなるのでご注意ください。
【まとめ】男性介護士だからこそ発揮できるメリットはたくさんある!
NHK炎上ツイート問題から「異性介助」と「同性介助」について解説しました。また男性介護士をとりまく現状と、男性だからこそ仕事に活かせるポイントを4つ紹介しました。男性の方も、女性の方もそれぞれの性差を活かし、協力して介護業務ができると良いですね!
今の職場になじめないと感じている人は…
チームとして性差を活かすには風通しの良い職場でなくてはいけません。今の職場になじめないと考えている方には職場を変えることもオススメしています。職場の人間関係は働く上でもっとも重要なことです。
転職するなら介護職専門の転職エージェントを使うことをオススメします。理由はこちらの記事をご参照ください。もちろん完全無料です。
男性の方も、女性の方も、介護をする人も受ける人も、全員にとって良い介護が提供できると良いですね!
参考文献/URL
「男性からの入浴・排泄介助は性犯罪被害に遭っているのと変わらない」NHKのツイートに批判殺到(篠原修司)Yahoo!ニュース
社説:異性介助 女性障害者の尊厳を守れ <明日を考える>,京都新聞,2022
市町村・都道府県における障害者虐待の防止と対応の手引,厚生労働省 地域生活支援推進室,2022
放課後等デイサービスガイドライン,障害児通所支援に関するガイドライン策定検討会 厚生労働省,2015
障害福祉サービス等報酬改定検証調査 (令和元年度調査)調査結果報告書,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部,2020
令和3年度 労働者調査「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」,公益財団法人 介護労働安定センター,2022
介護職の性別職域分離 女性職における男性優位のメカニズムについての一考察,島原 三校,女性学,2012
高齢者介護施設における男性職員の就業継続要因:3つの職層におけるフォーカス・グループから,吉岡洋子 他,関西大学社会学部紀要,2022
男女の思考パターンに違いはあるか?:男脳・女脳の分析,三田雅敏 他,東京学芸大学紀要 自然科学系,2007