「移乗介助をしていると腰や肩が痛くなる」そう感じる介護職員は多いと思います。移乗介助は前かがみの姿勢で瞬間的に大きな力を入れるため、体に負担がかかりやすい動作です。
私は理学療法士として19年間、介護業界で働いています。これまで介護職員と協力し、介助時の体への負担を減らす方法を考えてきました。
実は福祉用具を活用することで、利用者を持ち上げず楽に移乗介助をすることができます。
この記事では、移乗介助時に職員への負担を減らす福祉用具を3つご紹介し、現場に導入するまでの5つのステップについて解説します。
- 介護リフト
- スライディングボード
- スライディングシート
- 上司に相談する
- 福祉用具を導入すべき根拠を説明する
- 委員会・チームを作る
- 福祉用具の研修を開催する
- 福祉用具の使用状況を確認し続ける
移乗介助で体を痛めている介護職員がいたら、参考にしてもらえたら嬉しいです。
福祉用具を使えば体への負担は減る
日本では介護職員の5~8割が腰痛を訴えているという調査結果があります。
しかし腰痛のある職員でも、福祉用具を利用した職員は腰痛が改善したという報告があります。福祉用具を活用すれば持ち上げない・抱え上げない介助が実現し、介護職員への負担を減らすことができます。
またある調査では福祉用具を利用することで介護職員の欠勤日や労災使用日が減ったという結果が出ています。職員の痛みがよくなれば組織的にも大きなメリットが出るということです。
介護をする側もされる側も安心・安全なケアを提供するため、福祉用具を積極的に活用すべきだと思います。
職員の体への負担を減らす福祉用具3選
移乗介助の時、職員の身体への負担を減らす福祉用具を3つ紹介します。
介護リフト:重度の要介護者が対象
「介護リフト」は利用者の体を吊り具で支え、電動機械の力で持ち上げ移乗させることができる福祉用具です。一人で座ることができないような重度な要介護者でも、人力で持ち上げずに移乗介助ができるようになります。
注意点としては利用者が吊り具から落下することが無いよう、吊り具の当て方や操作手順を守る必要があります。
スライディングボード:座位保持可能な人が対象
「スライディングボード」は一人で座ることができる要介護者に対して使います。車椅子とベッドの間にボード(板)を渡し、ボードの上を滑らせるように介助することで移乗させます。摩擦しにくい丈夫な素材でできており、持ち上げずに移乗させることができます。
注意点としては滑りすぎてボードから外れて転倒するリスクが考えられます。車椅子とベッドにボードをしっかりと渡し、ゆっくり介助しましょう。
スライディングシート:ベッド上の移動に有効
「スライディングシート」はベッドで横になっている人を上下・横に移動介助する時に使います。滑りやすい素材でできており、利用者の体の下にシートを敷き、シートごと滑らせることで、ベッド上の移動介助ができます。
注意点としては滑りすぎてベッドから転落するリスクがあります。勢いにまかせず、ゆっくりと介助しましょう。
福祉用具を介護現場に導入する5つのステップ
自分の職場には福祉用具がないという人は、以下の5つの手順で導入を進めてみて下さい。
- 上司に相談する
- 福祉用具を導入すべき根拠を説明する
- 委員会・チームを作る
- 福祉用具の研修を開催する
- 福祉用具の使用状況を確認し続ける
1.上司に相談する
福祉用具の導入はお金のかかる話であり、介護の方針を変えることでもあります。自分1人の判断で決められるものではありません。
まずは上司に相談しましょう。基本的には直属の上司に相談すると良いのですが、あまり話を聞いてもらえない場合は施設長などトップに相談しても良いでしょう。
また事前に同僚や部下にも相談して意見をもらっておくと、上司に相談する時に参考材料として伝えることができます。
2.福祉用具を導入すべき根拠を説明する
相談する時には福祉用具を導入すべき根拠を説明しましょう。以下にポイントを挙げますので、自分の職場の状況に当てはめて考えてみて下さい。
- 今の職場には腰痛の人が○人いる
- 腰痛のために業務に支障をきたしている人が○人いる
- 「職場における腰痛予防対策指針」(厚生労働省)では持ち上げ重量は男性は体重の40%以内、女性はさらにその60%程度とされている(体重60㎏の男性職員なら24㎏まで。女性職員なら15㎏程度)
- 現在の職場で持ち上げている重量(利用者の体重)は○㎏である
- 介護リフト等の福祉用具を使えば人力で持ち上げることなく介助が可能になる
- 介護リフトなどの福祉用具を導入すると腰痛が緩和されるという調査結果がある
- 介護リフトなどの福祉用具を利用すると介護職員の欠勤日や労災が減るという調査結果がある
3.委員会・チームを作る
福祉用具の導入にあたり、実際に現場でどのように使用していくか決める必要があります。
- どの福祉用具を
- いつ
- どこで
- 誰が
- どのような人に対して
- どのような方法で
- なぜ使うのか
これらを誰か1人が決めることは困難です。
そのため福祉用具導入に向けた委員会やチームなどを作り、そこで判断すると導入がスムーズになります。たとえば「福祉用具活用委員会」とか「腰痛予防対策チーム」などの名前が良いと思います。
4.福祉用具の研修を開催する
福祉用具を活用するには、正しい使い方やリスク管理について学ばなければいけません。事前に必ず研修を開催して技術を習得しましょう。
研修開催にあたっては、福祉用具を販売している業者などに依頼すれば使用方法をレクチャーしてくれます。
また【公益財団法人テクノエイド協会ホームページ】にあります「福祉用具シリーズ」が大変勉強になりますので、ぜひご活用ください。「調査研究」のカテゴリーから閲覧できます。
5.福祉用具の使用状況を確認し続ける
知識・技術を得たら、あとは実践あるのみです。福祉用具は1度使って終わりではなく、使い続けることが重要です。福祉用具を使った介護を職場のスタンダードにしましょう。
また、福祉用具が狙い通りに活用できているかの定期的なチェックも必要です。もしうまく活用されていない場合は、用具の選択や使用方法を変更するなどの対応をしましょう。
『福祉用具を使った介護の実践』→『効果検証』→『課題抽出』→『改善策を検討』→『改善策の実践』というサイクルが不可欠になります。
まとめ:福祉用具を導入して、体への負担を減らそう
移乗介助時に職員への負担を減らす福祉用具を3つご紹介し、現場に導入するまでの5つのステップについて解説しました。
- 介護リフト
- スライディングボード
- スライディングシート
- 上司に相談する
- 福祉用具を導入すべき根拠を説明する
- 委員会・チームを作る
- 福祉用具の研修を開催する
- 福祉用具の使用状況を確認し続ける
あなたの職場でも福祉用具を積極的に活用して、介護職員の体に無理のかからないようにしてくださいね。
上司が相談にのってくれない場合は…
福祉用具の導入や活用について上司や施設長に相談しても全く話を聞いてくれない場合、職場を変えることも検討してみてください。
無理な介護を続けて体を壊しては大変です。安心して働ける環境が必要です。
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参考文献/URL
腰痛予防のためのノーリフティング手引書 ノーリフティングの概念とケアの手法,高知県地域福祉部地域福祉政策課 一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク,高知家まるごとノーリフティング宣言サイト,2020
介護者のための腰痛予防マニュアル—安全な移乗のために—,岩切一幸 他,労働安全衛生研究,2008
高齢者介護施設における組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響,岩切一幸 他,産業衛生学雑誌,2017
社会福祉施設の労働災害防止(介護従事者の腰痛予防対策),厚生労働省 中央労働災害防止協会,厚生労働省,2014