ハラスメント

【介護のカスハラ】我慢すべき?利用者の暴言、暴力、セクハラを防ぐ4つの対策

【PR】「ラブカイゴ」は複数の企業とアフィリエイトプログラムを提携しています。当記事は参考文献や筆者の経験などにもとづき執筆しており、情報の根拠を明示しています。

介護士のみなさんは利用者から暴言や暴力、セクハラを受けたことはありますか?多くの介護士が「ある」と答えると思います。現場では利用者からのハラスメントが、あまりにも当たり前に行われているように感じます。

多くの利用者は認知症などの症状のせいで適切な判断ができません。暴言・暴力・セクハラをされても仕方ないと考える介護士も多いでしょう。中には我慢の限界を感じ、精神を病んでしまう人もいると思います。

でも、実は我慢する必要はありません。あなたは守られるべき存在なのです。

利用者から受けるハラスメントを『カスタマーハラスメント』(略して『カスハラ』)といいます。令和3年度に介護のカスハラ対策が努力義務となりました。

私は17年間介護業界で働き、今は管理職をしています。実際、これまで多くのカスハラに悩まされてきました。しかし今は徹底的な対策を行い、職員を守ることに尽力しています。対策により明らかにカスハラの数は少なくなり、職員の離職率も減りました。

この記事ではカスハラから介護士を守る方法を解説します。具体策は次の4つです。

カスハラに対する4つの具体策

1.毅然とした態度で「やめてください」と言う

2.「制度ですから」と伝える

3.利用契約書を見直す

4.契約を解除し、サービスを終了させる

もし、あなたがカスハラに悩み苦しんでいたら、少しでも参考にして頂ければと思います。

カスハラとは『カスタマーハラスメント』のこと

『カスハラ』とは『カスタマーハラスメント』の略で、利用者や家族から受けるハラスメントのことをいいます。『カスタマー』は『お客さん』という意味です。過度なクレームや悪質な迷惑行為はカスハラに当たります。

カスハラは正当な理由のあるクレームとは違います。根拠のない言いがかりや、一般の許容範囲を超えた過度な要求・主張、長時間の拘束、暴力行為などがカスハラに該当します。具体例をみてみましょう。

  • 気に入らない職員に対し「おまえじゃダメだ」「役立たず」「帰れ」と人格などすべてを否定するような辛辣な言葉を浴びせる
  • 説明と同意の上でリハビリをしていたのに、病気が原因で体力が低下してしまった際「リハビリの内容が悪いから体が弱ったんだ」などと思い込みクレームをつける
  • デイサービスの送迎時に「肉を買いたいので帰る前にスーパーに寄って欲しい」と頼まれ、断ると激怒する
  • 自分の意にそぐわない対応をとられると大きい声で「バカ野郎!」と怒鳴り、殴ろうとしてくる家族
  • ものを投げる、叩く、噛みつく、唾をかけるなどの暴力行為
  • 女性職員の胸やお尻を触り、注意してもやめようとしない
  • 男性利用者が自慰行為する様子を、入浴介助中の女性職員に見せつけてくる

このような行為がカスハラの具体例です。思い当たることはありましたか?

施設はカスハラ防止に取り組むべき

令和3年度、介護施設の運営基準にカスハラ防止が盛り込まれました。

顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)の防止のために、事業主が雇用管理上の配慮として行うことが望ましい取組の例として、①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、②被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)及び③被害防止のための取組(マニュアル作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組)が規定されている。介護現場では特に、利用者又はその家族等からのカスタマーハラスメントの防止が求められている。

介護保険最新情報Vol.945,厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課,2021

厚生労働省は介護におけるカスハラの現状を問題視しており、解決のためにこのような運営基準を設けています。施設はカスハラ防止に取り組むべきなのです。

カスハラ防止の取り組みとして、例えば『介護現場におけるハラスメントに対する基本方針』を作ることなどが挙げられています。以下に参考例のワードファイルをアップしていますので、よろしければご自由にお使いください。

職場全体でハラスメントを防ぐという強い意志を示すことが重要です。しかし現場で働く介護士はカスハラに対してどのように考えているのでしょうか。

現場の介護士の意識は…

次の質問に答えて下さい。

Q.カスハラについて次の3つの中から、自分の考えに近いものを選んでください。

  1. 自分たちは介護のプロなのだから、ちょっとくらいハラスメントを受けても我慢するべきだ
  2. 相手が認知症なので、暴言や暴力、セクハラを受けてもハラスメントに該当しない
  3. 介護のプロといえども人権は守られるべきで、利用者・家族からのハラスメントは許されない行為

いかがでしょうか?この記事を読んでいる人は③を選ぶ人が多いかもしれません。しかし現場では①、②の考え方を持っている人も少なからずいます。

また③を選んだ人でも、現場に入ると③の態度をとれず、中途半端にしてしまう人も少なくないと思います。それだけ介護におけるカスハラは扱いにくい問題をはらんでいます。

特に職員側にミスがある場合を考えて下さい。『利用者が怒っているのは私の対応が悪かったから』『私が連絡をしなかったせいで、家族を怒らせてしまった』など、自分が悪いと思ってしまうでしょう。

自分を守ることが最重要!絶対に抱え込まないで!

でも、たとえ自分にミスがあったとしても、自分を守ることが最重要なのです。人間だから失敗することもあります。謝罪が必要な時もあるでしょう。でも、だからといって利用者や家族からの理不尽な要求を受け入れる訳にはいきません。カスハラに対しては基本的には毅然と対応すべきです。絶対に抱え込まないで、上司や同僚に相談してください。

ただ利用者が認知症だと行為の意味を理解できず、注意しても再発防止が見込めない場合もあります。また入居者であれば入居契約を解除した場合、入居者の行く当てがなくなり生活・生命がおびやかされる可能性もあります。介護のカスハラには簡単に割り切れない問題があるのです。

では、カスハラに対してどのような対策をとればよいのでしょうか。4つの具体策について説明します。

カスハラに対する4つの具体策

1.毅然とした態度で「やめてください」と言う

暴言、暴力、セクハラなどの明らかなハラスメントに対しては毅然とした態度を示すことが重要です。ハラスメントを受けた時は、その場で相手に対してはっきりと「やめてください」と言いましょう。そしてハラスメントがあったことをすぐに上司に報告し、介護記録に残してください。

ハラスメントを受けた時、不安や恐怖のために冷静な判断や行動をとることができないかもしれません。それでも大丈夫です。そのような時はなるべく早くその場から離れ、まずは上司に報告しましょう。そしてハラスメントの事実を介護記録に書いてください。

ハラスメントに対しては自分一人で対応するには限界があります。チーム全体で情報を共有し、対策を行いましょう。

2.「制度ですから」と伝える

理不尽な要求に対してはどのように対応すればよいでしょうか。それは「制度上、対応できない」と伝えることです。具体的には、たとえば以下のように言いましょう。

「ご要望にお応えしたいのは山々ですが、当施設は介護保険制度の規定のもと運営している特別養護老人ホームでして、人員配置基準にのっとって介護を提供しており、お一人に対し特別に手厚いサービスをすることはできない仕組みになっております。また介護保険という国民の皆様に広く平等にサービスを提供しなければいけない性質上、特定の入居者を優遇することも制度上できません。」

『本当は入居者様のもとに1秒でも早く駆け付けたい!でも制度のせいでそれができないんです…』と制度のせいにして残念そうに伝えると効果的です。『対応できない』という事実をはっきりと伝えましょう。

3.利用契約書の見直し

もしカスハラが起きたときに、施設側に不利にならないよう利用契約書の内容を見直しておくことは非常に重要です。特にサービスを終了せざるを得ない場合を想定して内容を考えましょう。

たとえば『契約終了時に退去先が決まっていない場合、身元引受人に行先確保などの措置を義務づける』などの内容が必要になってきます。

また事前防止策としては、契約時にカスハラを行わないよう利用者・家族に説明することも必要です。パンフレットなどを活用して分かりやすく伝えましょう。以下にパンフレット参考例のワードファイルをアップしていますので、よろしければご自由にお使いください。

4.契約を解除し、サービスを終了させる

カスハラに対する最終手段は利用契約を解除し、サービスを終了させることです。しかしハラスメントがあったら、即サービスを終了させるという訳にはいきません。必要な手順をふみましょう。

ステップ1)問題行為を止めるよう申し入れる

なるべく早い段階で、困っていることを本人、家族に打ち明けましょう。その際、相手の話は極力傾聴して、関係構築に努めることが必要です。相手の人格を問題視するのではなく、客観的な行動・態度に焦点をあて、やめて欲しい行為を具体的に申し入れましょう。こちらが感情的になったり動揺したりしないよう、淡々と話すことが必要です。

あとで裁判になる可能性もあるため、事前に証拠をそろえておきましょう。計画書や介護記録、報告書、メモ書き、音声などあらゆる記録が裁判で検討されることになります。

ちなみに相手との会話を無断で録音することは合法です。お守り代わりにICレコーダーや録音アプリを使いましょう。罪悪感を感じる必要は全くありません。

ステップ2)契約解除を通知する

契約の解除には正当な事由が必要です。単純に「こんなことを言われた」「あんなことをされた」という事実だけで契約解除をすることはできません。次に示す5つのポイントを考慮して正当事由があれば、契約を解除しましょう。

契約解除をすべきか見極める5つのポイント

契約解除をすべきか判断するポイントは次の5つです。

  1. ハラスメント行為の程度や頻度
  2. 職員や事業所の被害状況
  3. ケア方法に改善の余地があるか
  4. 精神科の治療が必要か(服薬治療、入院治療など)
  5. 注意することで、行為が改善されるか(理解や協力を得られるか)

これらの要素を総合的に考慮する必要があります。

総合的な判断の具体例

高齢の利用者Aさんは『気に入らない職員を大声で怒鳴りつけたり、叩く』というハラスメント行為を毎日行っている。

職員の中には心に傷を負い、夜も眠れなくなったり食事も十分にとれなくなった人がいる。Aさんの行為が原因でこれまで3人の介護士が退職してしまった。

ケアとして改善できる点はAさんの疲労具合に配慮し、日中も20分程度の臥床休憩をとるようアプローチしているが限界がある。現在、制度上十分な職員数にて対応しており、これ以上職員配置を変更することは困難。

ハラスメント行為に関して主治医に相談しても、現在の服薬治療以外に方法は無いと言われた。

Aさんに対してハラスメント行為を注意しても反省する様子はない。むしろ徐々にエスカレートしてきている。

他の施設・事業所や関係機関の担当者も交えてAさんと話し合ったが再発の可能性は否定できなかった。

Aさん、家族へハラスメントの状況を伝え「続くようであれば契約解除もやむを得ない」と数回にわたり説明しているが、状況は変わらず半年が経過した。

以上のことから、Aさんのハラスメント行為による当施設の被害は大きく、Aさんに対する当施設でのケアは限界を迎えている。そのため契約解除の予告期間を置き、施設側からAさんに対して契約解除を申し出ることにした。

その際は後任の施設・事業所の紹介・その他の必要な措置を十分講じる。

このような正当事由がある場合、契約解除を申し入れてサービスを終了させることが、カスハラに対する最終手段となります。

【まとめ】まずは上司に報告して、記録に残そう

介護のカスハラについて、具体例や4つの解決策などを解説しました。カスハラ被害にあったら不安や恐怖で正常な判断・行動をとることは難しいかもしれません。でも、絶対に一人で抱え込まないでください。上司に報告して、記録に残してください。チームで協力して対策を行えば、カスハラからあなたを守ることができます。

しかし上司に相談しにくい環境にいる場合は要注意です。相談しても職場から守られていると感じられない場合も問題です。そのような時は職場を変えること(転職)も視野に入れた方が良いかもしれません。

もし転職を考えている方がいましたら、介護専門の転職サイトを使うことをおすすめします。こちらの記事もご参照ください。

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カスハラに悩み苦しんでいる介護士が、一人でも減ることを願っています。

参考文献/URL

なぜ「カスタマーハラスメント」は起きるのか-心理的・社会的諸要因と具体的な対処法-,池内裕美,情報の科学と技術,2020

カスタマーハラスメント―心理学的アプローチの可能性を探る―,古屋健 他,応用心理学研究,2022

介護現場におけるハラスメント対策マニュアル,株式会社 三菱総合研究所,2022

介護保険最新情報Vol.945,厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課,2021