介護環境

【不適切ケアは虐待の芽】早期発見する方法&予防のための5原則

【PR】「ラブカイゴ」は複数の企業とアフィリエイトプログラムを提携しています。当記事は参考文献や筆者の経験などにもとづき執筆しており、情報の根拠を明示しています。

不適切ケアという言葉を聞いたことがありますか?不適切ケアの延長には虐待があるため、虐待の芽とも言われます。不適切ケアは利用者の尊厳を損なわせるような、職員都合のケアです。

「私は不適切なケアなんかしていません!」自信を持ってそう言える人はどれくらいいるでしょうか?職員が足りない、時間が無い介護職の現場では、理想的なケアを実現することが難しいかもしれません。

また認知症の人が不穏になると、職員に対して困ることをすることがあります。時には暴言をはいたり暴力をふるったりすることもあるかもしれません。そんな時に条件反射的にイライラしてしまう職員の気持ちはよく理解できます。利用者に対して嫌悪感を覚えるのも仕方ありません。

でも、だからといって利用者を雑に扱うのは良くありません。私は18年間、介護業界で働き不適切ケアの問題と向き合ってきました。職場内で不適切ケアが完全に無くなったわけではありません。しかし職員みんなで意識することで大きく減らすことができました。

この記事では介護現場で不適切ケアが行われているかチェックする方法と、不適切ケアを予防する方法について解説します。自分自身、または職場のスタッフのケアが不適切になっていないか心配という方に参考にしてもらえたら嬉しいです。

先に結論からご紹介します。

以下に詳しい解説をしていきます。

不適切ケアの延長線上には虐待がある

不適切ケアは「虐待とは言えないが、利用者の尊厳やプライバシーを損なう恐れのある職員による言動」と定義されています。不適切ケアと虐待は連続線上にあり、中間にはグレーゾーンがあります。

出典:令和元年度 介護サービス事業管理者高齢者権利擁護研修 居宅系 本日の振り返り「配布資料」,公益財団法人 東京都福祉保健財団

介護職員による虐待件数は年々増加

厚生労働省の調査によると介護職員による高齢者への虐待は増加傾向です。これは昔と比べ職員の虐待に対する認識が高まり、これまで明るみになっていなかった部分がおおやけになってきているという理由があります。

出典:令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果,厚生労働省

虐待を隠ぺいせず公表するのは正しいことですが、虐待が起きていることは事実です。令和3年度は739件の虐待が発生しています。

虐待はあってはならないことです。虐待を予防するためには、虐待の芽となる不適切ケアを防ぐことが重要になります。

不適切ケアの具体例

不適切ケアとは具体的にはどのような言動なのでしょうか?次の例をみてみましょう。

  • 利用者に友達感覚で接したり、子供扱いする
  • 利用者に対して、アセスメント・施設サービス計画書に基づかず、あだ名や○○ちゃん呼び、呼び捨てにする
  • 利用者に対して、威圧的な態度、命令口調(「○○して」「ダメ!」など)で接する
  • 利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触る
  • 同意を得ず、勝手に利用者の私物を処分する
  • 食事や入浴介助の無理強いなど、利用者に嫌悪感を抱かせるような援助を強要する
  • 利用者が寝ているのに枕や毛布をはぎとる
  • プライバシーへの配慮に欠けたケア(排泄や病気、身体的特徴のことなどについて大声で話すなど)をする
  • 他者から見える位置で、利用者の衣類の着脱や排泄、入浴の介助をする
  • 時間がかかるため、利用者の衣類の着脱など、できることまで介助する

これらは全て不適切ケアに該当します。このようなケアが常態化しエスカレートすると虐待へ発展してしまう可能性が高まります。

不適切ケアの有無をチェックする方法

不適切ケアを予防するためにはまずは自分の職場のケアについて振り返る必要があります。次のチェックシートを活用して、職場の状況をチェックしてみてください。

もし、職場で不適切ケアが行われているとしたら、接遇マナーの5原則を見直してみましょう。5原則を徹底することで不適切ケアを防ぐことができます。

接遇マナーの5原則が不適切ケアを防ぐ

利用者の尊厳を守るためには接遇マナーが不可欠です。また利用者と信頼関係を築くためにも接遇マナーが必要です。利用者は社会的に弱い立場に陥りやすいため、介護は他のサービス業よりも接遇マナーを求められる仕事と言えます。

接遇マナーができていれば不適切なケアは自然と無くなります。一方、接遇マナーができていない状況は要注意です。思いやりのない職員、態度の悪い職員は、不適切なケアをしてしまう可能性が高いです。次に挙げる接遇マナーの5原則を確認しましょう。

1.挨拶

コミュニケーションは挨拶から始まります。この挨拶が自然と日常的に行われる環境にすることが重要です。利用者に対してだけでなく、その家族、施設への来訪者、同僚職員など、出会う人みんなに挨拶するよう心がけましょう。

挨拶する時は笑顔で、優しい口調となるよう意識しましょう。また挨拶に続けて「今日は良い天気ですね」とか「体調は変わりありませんか?」など、ひとこと付け加えると相手との距離感が縮まります。ぜひやってみてください。

2.身だしなみ

人は見た目が9割とも言われています。清潔感のある身だしなみを心がけましょう。パッと見た印象であなたの人間性が判断されてしまいます。次にあげる項目を確認してみてください。

  • 服に破れやほつれ、汚れがない
  • 髪にふけやベタつきがない
  • 長い髪は束ねる
  • 派手な毛染めをしない
  • 派手過ぎるメイクをしない
  • アクセサリーはつけない
  • 爪は短くきれいに整える(ネイルやつけ爪はNG)
  • 口臭、汗臭、加齢臭に気をつける
  • ピンやペンなど、怪我や事故につながる可能性のあるものを所持する時は注意する

身だしなみとおしゃれは違うものです。仕事中はTPO(時・場所・状況)に合わせた身なりを整えるようにしましょう。

3.言葉遣い

利用者と親しい(お互いをよく理解し、安心できる)関係になることは良いことです。でもなれなれしい(ぶしつけで、遠慮がなさすぎる)関係になってはいけません。介護職員は専門職です。利用者は友達ではありません。

場合によってはなれなれしく話し合うことが好きな利用者もいるかもしれません。友達感覚で話す方が良い関係を築けると主張する介護職員もいるでしょう。でもその会話を聞いている周りの利用者はどう思うでしょうか?利用者の家族はどう思うでしょうか?居合わせた関係者や周りの職員はどう思うでしょうか?中には嫌な思いをしている人がいるはずです。

次のような表現は相手を傷つけてしまう可能性があります。

  • 友達のようにタメ口で話す(あのね・~だよね)
  • 子供に接するように話す(あーんして・ダメだよ・こっちだよ)
  • 指示・命令口調で話す(~して・そこにいて・動かないで・座ってて)
  • 上から目線で話す(~してあげる・わかったから)

次にあげるような相手の心をほぐす表現を使うように心がけましょう。

  • 気持ちを受容しながら話す(分かります・そうですよね)
  • 利用者中心で話す(もしよろしければ・いつでも声かけてください)
  • 安心感を与えるように話す(心配ありません・安心してください・大丈夫です)

4.表情

表情は心を表す鏡とも言われます。身だしなみ同様、あなたの表情ひとつで相手に与える印象は大きく変わります。

笑顔の効果は絶大です。自分が笑顔だと相手にもうつることが多々あります。つくり笑いでも愛想笑いでも、笑顔を作っていると楽しい感情がわいてくるといいます。口角を上げて笑顔を作ることを意識してみてください。

5.姿勢と態度

あなたの普段の身のこなしを利用者は見ています。姿勢と態度にも日ごろから注意しましょう。たとえば次のことを意識して行ってください。

  • 話す時は利用者と目線の高さを合わせる
  • 利用者の話に耳を傾け、話を引き出し、気持ちに寄り添う
  • スタッフ同士の会話で盛り上がらないよう注意する

接遇マナーは介護業務の中で最優先されるべき

「接遇マナーなんか丁寧にやっていたら時間がなくなる」「そんなことをやりながら介護なんてできない」そんな意見を言いたい人もいるかもしれません。

でも、ちょっとだけ落ち着いて考えてみて下さい。入浴介助を早くできる、食事介助を早くできる、それだけが介護と言えるでしょうか?「介護」は人が人を助けることだと思います。その中で相手を思いやる気持ちは、何よりも優先されるべきことだと思います。

その思いやりを形にしたものが接遇マナーです。私たちは介護の専門職です。どうか介護を提供する時は、接遇マナーを大切にして欲しいと思います。

もちろん業務を的確に素早く行う技術も重要です。それを接遇マナーと両立できる職員が本当に優秀な介護職員と言えるでしょう。

まとめ:不適切ケア予防のために接遇マナー徹底を!

不適切ケアとその予防策について解説しました。ぜひチェックシートを活用して、あなたの職場に不適切ケアがないかみんなで確認してみてください。

介護職員のみなさんは、毎日本当に忙しく働いていると思います。でもその中でも接遇マナーの5原則を意識して、不適切ケアの予防を図ってもらえたら嬉しいです。ケアを根本から見直すには時間がかかるかもしれません。それでも利用者を尊重した丁寧なケアが実現されることを願っています。

不適切ケアを無くす取り組みができない場合は、転職も?

あなたがいくら努力しても職場内で不適切ケアをなくそうという取り組みが行われない場合は、職場を変えることも検討した方が良いかもしれません。不適切ケアは見ているだけで辛い気持ちになります。ひょっとしたらあなた自身が心を病んでしまう可能性もあります。あなた自身を守るためにも職場を変える(転職する)ことも必要かもしれません。

もし転職を検討するなら介護専門の転職サイトを使うことをお勧めします。もちろん完全無料です。5つのメリットについてはこちらの記事をご参照ください。

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みなさんの職場の不適切ケアが1つでも少なくなり、利用者がさらに笑顔で穏やかに暮らせるようになることを心から願っています。

参考文献

障害者支援施設における「不適切なケア」の因子構造,岡本健介 他,岡山県立大学保健福祉学部紀要,2017

養介護施設従事者等による不適切なケアに対する効果的な予防策の検討,松本望,社会福祉学,2020

介護職員の「不適切ケア」の判断の拠り所-アンケートの自由記述の分析から-,佐藤弥生 他,岩手県立大学社会福祉学部紀要,2016

令和元年度 介護サービス事業管理者高齢者権利擁護研修 居宅系 本日の振り返り「配布資料」,公益財団法人 東京都福祉保健財団

令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果,厚生労働省

ホスピタリティマインドにあふれる接遇マナーの基本 接遇研修にみる学生の学び,鶴田晴美 他,東都医療大学紀要,2021