あなたの職場は業務改善に取り組んでいますか?人手不足で忙しく、業務を見直したり改善したりする余裕なんてないという人も多いと思います。
介護の対象は人であり、利用者は一人ひとり千差万別です。全員に決まった業務手順を確立することは困難であり、介護は業務改善がやりにくい仕事と言えるでしょう。また介護は専門職ですが、効率化を重視し過ぎると専門性が失われてしまう可能性もあります。
私は介護業界で19年間働き今は管理職をしています。実は、業務改善に取り組みはじめた時は周りの職員からずいぶん反発をくらいました。振り返れば私の配慮が足りなかったと反省しています。
ですがコツコツと業務改善を行った結果、以前よりも業務効率が上がり、職員の負担が減り、離職率も減らすことができました。
この記事では、周りの職員から反発されないように配慮しながら業務改善を進める方法について解説したいと思います。
「業務改善に取り組みたいけど、仲間の職員から何を言われるか心配」という人はぜひ参考にしてください。
- 具体的な例を挙げる
- 指摘と同時に感謝の気持ちを伝える
- ポジティブな言葉を選ぶ
- 改善策を一緒に考える
- 問題をチーム全体で共有
- フィードバックは個別で行う
人手不足は業務改善で乗り切ろう
介護の現場には人手不足という深刻な問題があります。
限られた人員で利用者に対処すると職員一人ひとりの負担が大きくなり、サービスの質や業務効率が悪くなります。
職員のモチベーション低下や離職率の増加にもつながり、人手不足は悪循環していきます。
適正人員を確保することは急務ですが、現実的には限られた人数で業務をこなすことを求められます。
そこで必要なのが「業務改善」の視点です。業務改善で介護の生産性を高めれば、少ない人員で最大の仕事量をこなすことができるようになります。
介護は業務改善が受け入れられにくい仕事
業務改善は重要ですが、そもそも介護は業務改善が受け入れられにくい仕事です。その理由は3つあります。
- 人間関係や感情の問題:業務改善にあたっては、職員や利用者、家族などさまざまな人の考えや思いを考慮する必要があります。それぞれ異なった立場や考え方があり、一つにまとめるのは容易ではありません。
- 人材不足で多忙な状態:介護現場はどこも人手不足で多忙です。業務を変更しても適応する余裕がなく、変化を受け入れにくい状態にあります。
- 介護は個別ケア:利用者は千差万別であり、一人ひとりのニーズに合わせた個別ケアが求められます。効率性を重視する業務改善とは相反する考え方です。
では、どうやって業務改善を進めていけば良いのでしょうか。
無駄な作業を改善できれば、業務効率はアップする
業務改善にも色々ありますが、1つは業務の中にひそむ無駄な作業を見つけ出し、改善する方法があります。
無駄な作業とは「もっと簡単にしたり、省略したりできる作業」のことです。例えば
- 利用者を自宅に送った後に忘れ物に気づき、もう一度自宅に届ける
- バイタルサインの数値を何度も転記している
などは無駄な作業と言えるでしょう。このような作業を改善できれば、職員にかかる負担を抑え、業務効率をアップさせることが可能です。
介護現場で見られる「無駄な作業」の具体例
介護現場で見られる「無駄な作業」の具体例を挙げてみました。
- 同じ情報を別々の用紙や書式に何回も記入して管理する
- 職員間の情報共有ができておらず、ケア内容にやり直しや誤解がある
- 介護に必要な道具や物品がそろっていない(または使いにくい場所にある)
- 適材適所になっておらず、苦手な仕事ばかりに配置させられる
- 行き当たりばったりで業務にあたり、意味のない作業をしている
みなさんの職場に無駄な作業はありそうですか?日々業務にあたっている職員にとっては、なかなか気づきにくい場合があります。
職員みんながお互いに確認し合い、客観的な視点で無駄を見つけ出しましょう。
ですが、もし無駄な作業を見つけたとしても、それを指摘するには注意が必要です。
「無駄」と言われた職員が感じること
現場の介護職員は一生懸命働いており、その努力は評価されるべきです。その人が「あなたの仕事には無駄があります」と指摘された場合、どのように思うでしょうか。
次の4つのパターンを考えてみましょう。
- 挫折感:達成感やプライドが打ち消され挫折を感じ、落ち込んでしまう。
- 不当な指摘を受けた:自分の努力を理解してもらえず不当な指摘を受けたと感じ、怒ってしまう。
- モチベーションの低下:評価してもらえず、仕事に対するやる気を失ってしまう。
- 改善への意欲:指摘されたことを前向きに受け止め、改善策を考えたり実行するようになる。
「無駄」と指摘されたとき、全員が前向きな気持ちになるわけではありません。むしろ嫌な気持ちになり、反発してくる人が多いと思います。
私が業務改善に取り組みはじめたとき、無駄だと思う作業をバンバン挙げて、みんなに指摘していきました。
誰かが無駄な作業をしていたら、みんなのいる前でその場で指摘しました。
「自分の言っていることが論理的に正しい」と考え、みんなで改善策を考えるべきだと思っていました。
しかし私が指摘しても、周りの職員からは反発されるだけでした。そして誰も一緒に改善策を考えてくませんでした…。
では、どのような点に配慮して「無駄」を指摘すれば良いのでしょうか。
周りの職員に配慮しつつ「無駄」を指摘する方法
周りの職員から反発されないように配慮しつつ「無駄な作業」を指摘する方法をご紹介します。このちょっとした配慮で、私は業務改善をスムーズに進めることができるようになりました。
具体的な例を挙げる
どのような作業が無駄になっているのか、具体的な例や状況を挙げて説明しましょう。「なんとなく無駄」というような感覚で話をしてしまうと、周りから理解を得られません。
指摘と同時に感謝の気持ちを伝える
ただ指摘するだけでなく同時に「いつもありがとうございます」「仕事がんばってますね」と感謝・ねぎらいの気持ちを伝えましょう。相手の努力に理解を示すことで、協力が得られやすくなります。
ポジティブな言葉を選ぶ
指摘する際には、なるべくポジティブな言葉を使いましょう。「無駄」と直接的に伝えるのではなく「優先順位が低い」「やらなくても大きな問題になりにくい」などの言葉を使うこともできます。相手のモチベーションに配慮しましょう。
改善策を一緒に考える
ただ問題を指摘するだけでなく、改善策を一緒に考えましょう。協力する姿勢を示すことで、相手と良い関係性を築くことができます。
問題をチーム全体で共有
特定の個人に対して非難するのではなく、チーム全体で問題を共有しましょう。改善策もチーム全体で考えると、より視野の広いアプローチができます。
フィードバックは個別で行う
特定の誰かにフィードバックをしたい場合は、人前ではなく個別でおこないましょう。みんなの前で指摘すると、相手が不安や恥ずかしさでネガティブな気持ちになってしまう可能性があります。
改善策を導き出す5つの手段
「無駄な作業」について配慮しつつ指摘したら、改善策を考えましょう。具体的には次のような方法があります。
現状を改めて確認する
介護業務の現状を改めて確認しましょう。誰が、いつ、どこで、誰に対して、どのような手順で介護しているかなどを洗い出します。各職員が個別で考えることも大切ですが、ミーティングなどで話し合っているうちに業務の全体が見えてくることもあります。
職員みんなの意見をきく
無駄な作業があったとしたら、実際にその業務にたずさわる職員が一番実感できるはずです。職員みんなの意見をきくことで、なぜ無駄が生じているか分かりやすくなります。
業務にかかった時間を記録する
具体的にどの作業にどれくらいの時間がかかっているか記録しましょう。時間のかかる作業が分かったり、どの段階で待ち時間が発生しているのかなどが明確になります。
デジタルツールを活用する
デジタルツールを積極的に活用しましょう。例えば、タブレットのアプリ等を使い、記録のデジタル化やスケジュール管理をすることで業務効率がアップします。
他の成功事例を調査する
他の介護施設や企業での成功事例を調査し、どのように無駄を省いているのかを学びましょう。自分の職場にも取り入れて、改善できることがあるはずです。
まとめ:無駄な業務を改善して人材不足を解決しよう
この記事では、周りの職員から反発されないように配慮しながら業務改善を進める方法について解説しました。
- 具体的な例を挙げる
- 指摘と同時に感謝の気持ちを伝える
- ポジティブな言葉を選ぶ
- 改善策を一緒に考える
- 問題をチーム全体で共有
- フィードバックは個別で行う
周りの職員へ配慮しつつ、客観的な視点で無駄な作業を洗い出し、チームで一丸となって業務改善に取り組んでみてください。そして人手不足の問題を解決していきましょう。
職場の協力が得られず、業務改善がうまくいかない場合
職場によっては業務改善など変化を受け入れず、今までどおりの作業をこなすというスタンスのところもあるでしょう。
業務改善がされないと、職員の負担はどんどん大きくなってしまいます。そのような職場で働いているなら、転職も検討してみてください。
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参考文献/URL
介護サービス事業(施設サービス分)における生産性向上に資するガイドライン(令和2年度改訂版),厚生労働省老健局,2020
介護サービス事業(居宅サービス分)における生産性向上に資するガイドライン(令和4年度改訂版),厚生労働省老健局,2022